世界のカレー

インド

東西南北に分かれた地域で違う、多種多様なスパイスと食文化。

日本の約9倍の国土面積に12億以上の人口を抱え、公用語のヒンディー語、英語のほか民族ごとの30以上の言語、約8割を占めるヒンドゥー教のほか、イスラム教、キリスト教、シク教、仏教などさまざまな宗教が信仰されているインド。ラジャスターンの灼熱の砂漠から冷涼なヒマラヤ山麓まで気候も多様で、まさに「小宇宙」と呼ぶにふさわしいこの国は、誰もが認めるカレーの”発祥地”でもあります。

しかし、当のインドの人々は本来、自分たちの料理を「カレー」とは呼びません。インドの食事はスパイスをふんだんに使うのが当然であって、インド伝統医学アーユルヴェーダのスパイスの効能を活かした「病気は台所で治す(医食同源)」という理念のもと、広大な国土の多種多様な地域性や民族性に培われた、ひとことで言い表せないほど奥深いもの。カレーというのはそもそも、ヨーロッパ人が呼称した言葉だったのでした。

インドの国土は大まかに、東西南北の4つ(または北東インドを加えて5つ)の地域に分けられます。首都ニューデリーのある北インドは、16世紀からおよそ300年間、トルコ系イスラム王朝ムガール帝国の支配下にあり、アフガニスタンやペルシャの影響を受けて、小麦から作るナンやチャパティを主食にしてきました。シナモンやクローブ、ナツメッグ、ガラムマサラを使った、どろっと濃厚なカレーが特徴的です。イスラムの影響により、肉料理の種類も豊富です。「ムルグマッカーニ(バターチキンカレー)」や「キーママター(キーマカレー)」、「タンドリチキン」、「パラクパニール(ほうれん草とチーズのカレー)」などが代表格。それに対して、アーユルヴェーダのお膝元で、インド古来のドラヴィダ文化が今も息づく南インドは、米を主食に、カレーリーフやマスタードシード、ココナッツミルクを多用したさらっとしたカレーがよく食べられています。野菜とヨーグルトのカレー「アヴィヤル」や、辛みと酸味のきいたタマリンドや黒コショウ、トマトなどのスープ「ラッサム」、スパイスで炒めたじゃがいもなどを豆粉のクレープで包んだ「マサラドーサ」、またバナナの葉の上にさまざまなおかずを乗せた定食「ミールス」などがポピュラーです。またアラビア海側のマラバル海岸は、紀元前から栽培されていたこしょうを求めて16世紀にポルトガルの航海者バスコ・ダ・ガマが上陸した地であり、今もなお良質なこしょうが生産されています。

東インドは、コルカタ(カルカッタ)周辺の「ベンガル料理」がよく知られており、米を主食に魚をよく食べる、日本とよく似た食文化です。マスタードオイル、マスタードシード、ターメリックなどを使った「マチェル・ジョル(ベンガルフィッシュカレー)」が有名です。また西インドは、厳格な菜食を教義とするジャイナ教のお膝元グジャラート州の定食「グジャラティターリ」が名物。マハトマ・ガンジーの出身地でもあり、彼はヒンドゥー教徒でありながら、この地の食文化の影響を受けて厳しい菜食主義を守っていたといいます。ジャイナ教ではターメリックやしょうが、にんにくなど、植物の命の源と考える根のスパイスやハーブもタブーなのですが、乳製品や砂糖は摂ることが可能で、限られた食材をおいしく食べる補強材になっています。なお西インドでは、小麦のパンと米の両方が主食です。

宗教別に料理の特色を見ていくと、まずヒンドゥー教は、牛を神聖視しているため、牛肉は食べません。カーストによる身分制度があり、地域差もありますが、特に高位カーストの人々は肉食自体を避け、厳格な菜食主義を守る傾向にあります。またイスラム教は豚肉を禁忌としていますが、インドではヒンドゥーの影響で牛肉自体が手に入りにくいこともあり、鶏肉や羊肉のカレーが多く見られます。仏教では肉食自体は禁じられていませんが、好んで肉食をする人は少なく、刺激の強いスパイスも避けられる傾向にあります。キリスト教も肉食を禁じておらず、カトリック教徒の多い旧ポルトガル領のゴアなどでは、牛肉や豚肉を使ったカレーもあります。北部のパンジャブ州を拠点としているシク教には、一部宗派を除き食べ物の禁忌は特にありませんが、どんな宗教の人も入れるシク寺院では、誰もが食べられるように菜食の食事を提供しています。なおインドを含めた南アジアや西アジアでは伝統的に、宗教を問わず右手で食事をする文化が息づいてきました。理由は衛生面(左手が不浄といわれる)のほか、食べ物は神から与えられた神聖なものであり、道具を使うのは失礼に当たるという概念があるためです。

パラクパニールレシピ(ほうれん草とチーズのカレー)
  • パラクパニール(ほうれん草とチーズのカレー)
  • 【材料(4人分)】
    牛乳 1000ml
    酢 50ml
    ほうれん草 2束
    (根をカットして、ざく切り)
    玉ねぎ 1個(みじん切り)
    にんにく 1かけ(みじん切り)
    しょうが 小さじ1/2(すりおろし)
    ヨーグルト 大さじ4
    重曹 小さじ1


  • バター 適量
    S&Bクミンシード 大さじ1
    S&Bターメリック(パウダー) 小さじ1
    S&Bガラムマサラ 大さじ1
    S&Bチリ―ペッパー(パウダー) 大さじ1
    水 適量
    牛乳 1000ml
    酢 50ml
    塩 少々

【作り方】
【1】パニール(チーズ)を作ります。鍋に牛乳を入れて中火で熱し、沸騰したら酢を入れます。かき混ぜていると上にチーズが浮かんでくるので、穴あきお玉などですくい、キッチンペーパーやふきんなどに包んで水けを切ります。四角い容器に入れて重石をし、30分置いて、角切りにします。
【2】お好みでフライパンにバター(分量外)を入れ、【1】の表面をを軽く焼いておきます。
【3】鍋に水と重曹を入れてわかし、ほうれん草をさっとゆでます。
【4】【1】とすりおろしたしょうが、水少々(分量外)をフードプロセッサーに入れて、ペースト状にします。
【5】鍋にバターを入れ、クミンシードを入れて熱し香りをひき出します。
【6】【5】に玉ねぎ、にんにくを加え、きつね色になるまで弱火で20分ほど炒めます。
【7】ヨーグルトを入れてかき混ぜながら少し煮込み、ガラムマサラ、ターメリック、チリ―ペッパー、塩を加えて混ぜます。
【8】【4】を加えて混ぜ合わせ、必要なら塩を加えて味を調えます。さらにチーズを加えて、3分ほど煮立てます。
【9】器に盛り付け、針状に切ったしょうがを飾ります。

インドを代表するカレー料理
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